失敗
わたしは失敗が怖いのでなにもしない、けど言い訳もしない。わたしがなにもしないのは失敗が怖いからです。
目の前に現れた問題に必死なフリをしてなにもしない。おとぎばなしのように膨らんだ「こうだったらいいな」と現実の違いにがっかりしてしまう自分が嫌いだからなにもしない。そしていつまでたっても世慣れない。だれかが腕をとってわたしを立たせてくれるのをずっと待っている。
絶対に忘れてしまっても
朝起きて働いて友達とタバコ吸いにいって
アホみたいな話をして「あーもー帰って寝たい」って言ったのに美味しくないスパゲッティをいつもの喫茶店で食べた後にダラダラ本とか呼んじゃって、感動して
信頼できる大人の人と話して盛り上がって、自分の手には追いきれないこともちょっと考えて真剣に悩んだりして、お家に帰ってヤダヤダ言いながら家事してマサヤン聴きながら漫画読んでちょっと泣いちゃって、あしたになったらまたみんなに会えるんだって思うみたいな今日を
わたしは絶対に絶対に絶対にいつか忘れてしまう
なんどでもいつまでも
いつまでもいつまでもしつこくしつこくしつこく王子様がわたしに何かをいう夢を見続けている。終わらない。いつまでもいつまでもくりかえしくりかえしくりかえし、王子様がわたしになにかを言う。
いつまでもいつまでもなんどでもなんどでもくりかえしくりかえしくりかえし王子様がわたしに、手を替え品を替えわたしに伝えたい言葉は、わたしがいつか誰かに言いたい言葉で、それはブチ切れるほどわたしが誰かに言われたい言葉だ。
秋の夕焼けに、帰ってきた夏の匂いに、どこかへ捨てられる吸いがらに、夜道に、くりかえしくりかえしくりかえし印をつけて、手に余るほどの幸せを抱えて、何にも捨てずに、わたしは王子様を待っている
とりさらわれたい
毎日はハッピーで切なくてとても面倒なことばかりだから、わたしはいつだってとりさらわれたい。とりさらわれることに憧れている。どうしてもやりたい仕事、なりたい自分、叶わない恋。とりさらわれて毎日を投げ打ってそのことで頭を一杯にして使う言葉を変えてそのことを食べて生きていきたくなる。
とりさらわれるとそこは1人の、わたしのTシャツの色をした部屋で、わたしの匂いが充満している。とりさらわれるのは容易い。秋みたいな風に押されたらそこはもうTシャツの部屋。そこから見る世界はさっきまで自分がいた驚くほどきらめく昼間の、窓越しの街で、わたしは海が見たくて昼寝をするんだ。そうして目が覚めたら仕事に行く、きのうから地続きのまだしらない今日を、海を泳ぐよりずっとハードな気持ちで、泳ぐ。帰りつく部屋がTシャツの部屋かそうでないかは、扉を開けるまでわからないのです。
週休1日
調子でも波でもバンでもいいからさ とにかくわたしを抱いて乗せてよ
「地に足を、さもなくば空を飛ぶ?」なんて問いはboring羽で駆けたい
バカだから437ページの扉をカバンにいつも飼ってる
「ノンアルじゃ生きていけんってことかしら?」さすが母さんわたしのママだね
預金額ながめる元気もないもんでクレカを切ってアイスをおごる
来世では是非ともディズニープリンセス恋に飽きたら民を救うね
夏を
夏休みも終わりのような天気です、今朝は大きな家の壁に蝉がぶち当たっているのを見かけました。
涼しいねと言ったら上司は「夏休みだったらプールに行くか悩む天気」とこたえてくれました。わたしは今日がもし夏休みだったら、迷いつつもプールに行って、ぽっちゃりしているから着たくないなあと思いながらスクール水着を着て、プールの底に沈んでいる塩素を間違って食べてしまう想像をしながら泳いで、お家に帰ってごはんを食べて眠ると思います。夏休み、は、8才。
短歌を詠むときは、目の前の夏を詠むのにいちばんグッドな言葉を探すため、一生分覚えているだけの夏を思い出そうと頑張ります。壁にぶちあたる蝉、ラムネによく似た塩素、せいかえんプールの焼きそば、死んでしまった人、アメリカンスクールのクッキーなど。
はやく海に行きたいなあと思います。海の思い出を入れておく箱にはシーグラスも貝殻も吸い殻も空きカンも貼ってあり、毎日のわたしを、きみを、入れておく箱と同じです。