カンビールノート

毎日むずかしくてむずかしくて本当にたのしい

とりさらわれたい

毎日はハッピーで切なくてとても面倒なことばかりだから、わたしはいつだってとりさらわれたい。とりさらわれることに憧れている。どうしてもやりたい仕事、なりたい自分、叶わない恋。とりさらわれて毎日を投げ打ってそのことで頭を一杯にして使う言葉を変えてそのことを食べて生きていきたくなる。

とりさらわれるとそこは1人の、わたしのTシャツの色をした部屋で、わたしの匂いが充満している。とりさらわれるのは容易い。秋みたいな風に押されたらそこはもうTシャツの部屋。そこから見る世界はさっきまで自分がいた驚くほどきらめく昼間の、窓越しの街で、わたしは海が見たくて昼寝をするんだ。そうして目が覚めたら仕事に行く、きのうから地続きのまだしらない今日を、海を泳ぐよりずっとハードな気持ちで、泳ぐ。帰りつく部屋がTシャツの部屋かそうでないかは、扉を開けるまでわからないのです。